「理由もなく」  石橋秀雄牧師

 


「お前はわたしの僕ヨブに気づいたか。地上に彼ほどの者はいまい。無垢な正しい人で、神を畏れ、悪を避けて生きている。お前は理由もなく、わたしを唆して彼を破滅させようとしたが、彼はどこまでも無垢だ。」

(ヨブ記2章3節)



 木田献一先生の文書の中で、メイル・ヴァイスが紹介されていた。旧約聖書の文芸学的研究で大きな成果を上げている学者だ。ヨブ記のプロローグに関する優れた書物を出している。彼のこの書物は、彼の生死をかけた人生経験を重ね合わせている。
 1969年に出版されたヒブル語版の書物は「第二次大戦中殺された六百万人のユダヤ人の中にヴァイスの弟子たちとヴァイスと同じシナゴーグに属していた同胞」の為に献げられている。
 そして、ヨブの息子、娘たちを奪った嵐が西洋という荒地に住むユダヤ人達を襲い、ヴァイスの息子はドイツ脱出とイスラエルの入植の困難な時に誕生し、この誕生の時から重い病にかかり本書の英語版の出版の準備が開始される直前に世を去った。
 ヨブの所有が次々に奪われていく。ヨブの牧童が切り殺され、羊、羊飼い、らくだの群れ、牧童と次々失い、ついに息子たち、娘たちの命も奪われてしまう。
 「お前はわたしの僕ヨブに気づいたか。地上に彼ほどの者はいまい。無垢な正しい人で、神を畏れ、悪を避けて生きている。お前は理由もなく、わたしを唆して彼を破滅させようとしたが、彼はどこまでも無垢だ」(3節)
 「理由もなく破滅させられる」この悲劇がヨブの上に降り注ぐ。第二次大戦でのユダヤ人の犠牲、ヴァイスの息子を失うという経験とヨブの苦悩が重なる。自分の上に容赦なく襲う悲劇、理由なく破滅させられていく。この苦悩の中で神を見失ってしまう。神への不信仰な叫びを上げてしまう。
 ヨブの苦悩の底からの魂の叫びは、悲劇の中に生きる全ての人間の魂の深みからの叫びだ。
 何故神はこの魂の深みからの叫びを聞いてくださらないのだろうか。
神への不信と疑いが膨らむ中で、神への信仰が深められていく。
 「お前はわたしの僕ヨブに気づいたか。地上に彼ほどの者はいまい・・・彼はどこまでも無垢だ」神は見ておられることが、この御言葉から示される。
 「理由なしに破滅させる神」「神は本当に理由なしに正しい者を苦しめる神であるのだろうか」。
 神はヨブを突き放されてはいない。神は開かれた心でヨブを見つめておられる。
 ヨブを肯定して受け入れておられることが、3節の言葉から示される。
 人間が神を疑い叫んでいるとき、神はその叫びを聞き、生ける神との交わりの世界に招いてくださっている。
 ヨブは、ヴァイスは、その魂の深みからの叫びを通して生ける神に深く出会っている。この神との出会いはわたしたちにおいても起こっている。

 越谷教会月報「みつばさ」2016年2月号より



画像:「赤芽ヤナギ」は 朝焼け・夕焼け写真日記 からお借りしました。