September













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 鳩を売る者たちに言われた。「このような物はここから運び出せ。わたしの父の家を商売の家としてはならない。」
( ヨハネによる福音書 2章 16節)




 過ぎ越しの祭りが近づいたので、イエスは弟子たちを連れてエルサレムの神殿へと行かれました。この神殿は、紀元前二十年ごろにヘロデ大王の命令で建て始めたもので、当時世界でも有数の宗教建築物とされていました。部屋の配置などは、昔ソロモン王が建てた神殿とほぼ同じでしたが、外側の装飾などにはギリシャやローマなどの新しい流行を取り入れていました。とても立派な建物で、完成までに50年近くかかったということです。
 神殿のいちばん外側は「異邦人の庭」と言われており、広さは14万平方メートルの長方形で、色とりどりの石が敷き詰められており、ユダヤ人はもとより異教徒にも開放されていました。この中心に四方を囲まれた一画があって、そこには「異邦人の立ち入りを禁ず。これを犯したる者は死刑に処す。」と立札が建っておりここから、先に進めるのはイスラエルの男女だけでした。さらに女の人のための「婦人の庭」男の人のための「イスラエルの庭」と続き「祭司の庭」がありました。「祭司の庭」の奥には「聖所」、そして大祭司が1年に一回だけしか入れない「至聖所」がありました。
 「異邦人の庭」には、パレスチナやローマ帝国の各地からやってきたユダヤ人の巡礼、生贄(いけにえ)に使う鳩、仔羊、牛などを売る者、外国のお金をシケル硬貨に替える両替商、モーセの律法を論じ合う律法学者やラビ、また時間つぶしにやってくる者たちでひしめいていました。




 神様を礼拝するための神殿が、客を引く商人たちの声、動物たちの鳴き声、ふざけ合う人たちの笑い声などで、大変な騒ぎになっていたのを目の当たりにして、イエスは厳しい顔で辺りを見ておられました。イエスは縄でムチを作ると、そのムチを振り上げて牛や羊などの動物を追い出しました。再びムチをふるうと、ムチはピシッとうなって両替商人たちの台を倒し、お金が辺りに飛び散りました。イエスは鳩を売る人たちに向かって、
 「それをそこから持って行きなさい。わたしの父の家を商売の家としてはならない。」
と声高く叫びました。イエスは、あまりにもひどい神殿のありさまをご覧になって、黙っていることができなかったのです。柔和で心優しいイエスが、縄のムチをつくり、それを振り回したり、商人たちの台を蹴散らしたりして、商人たちを追い出されたというのですから、たいへんな驚きです。思いがけない出来事をあっけにとられて見ていた弟子たちは、神殿を大切に思うのはいいけれども、こんなことをして何か悪いことが起こらなければいいがと、とても不安に思いました。



 弟子たちの心配どおり、神殿の警備をしてユダヤ人たちが近づいてきてこう言いました。
 「こんなことをするからには、自分にはそうするだけの権威があるというしるしを見せてくれるのでしょうね。」
もちろん彼らも、神殿で商売をしてることは良くないことだと判ってはいましたが、商売人たちから場所代として高額の賄賂(わいろ)を貰っていた為、今まで見て見ぬふりをしていたのです。その引け目から、彼らはイエスを捕えることはせず、ただイエスを困らせようとして思って言ったのです。
 「この神殿を壊してご覧なさい。わたしは3日でそれを建てましょう。」
イエスは胸をはって、こう言われたのです。
 「この神殿は建てるのに46年もかかったというのに、あなたは3日で建てると言うのか。そんなことが出来るものか。」
と彼らは、呆れて言いました。イエスはご自分の体が神の神殿だと言われたのですが、誰もその意味は判りませんでした。
 このことがあってから、ユダヤ人の指導者、権力者たちはイエスを危険な人物だと考え始めるようになったのです。

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