ある日イエスはペテロ、ヤコブ、ヨハネの三人を呼んで、
「わたしについていらっしゃい」
とおっしゃいました。
その三人はいつもイエスの側におり、弟子たちの代表のような存在でした。
イエスはピリポ・カイザリアの近くにそびえるヘルモン山の頂上に向かって黙々と歩き始めました。ヘルモン山は高さが2,800m程あるその地方では最も高い山で、山の雪解け水は最後にはヨルダン川となって一帯を潤しています。イエスが一言も話さずにさっさと登る姿に、弟子たちはいつもと様子が違うなと思っていました。
もう日が暮れかかるころ、一行はやっとの思いで頂上に辿り着きました。イエスはすぐに三人から離れると、いつものようにお祈りをなさいました。イエスいつもとても熱心に長い時間祈られます。その日もイエスのお祈りは延々と続き、三人の弟子たちは眠気を堪えながら待っておりました。
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ペテロが今までのイエスとのやり取りを繰り返し思い巡らせていると、突然辺りが輝き出しました。びっくりして顔を上げると、何と暗闇の中でイエスのお姿が光輝いているではありませんか。イエスの顔は太陽のように光を放ち、着るものは真っ白に光っています。こんな白さは今まで見たこともありません。ヨハネやヤコブもしっかり目を覚まし、驚いて言葉も出ません。 |
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三人が目をこらしてじっと見つめてると、イエスの側にはやはり光輝く二人の人が立っていました。一人は昔神さまから十戒を授かったモーセで、もう一人は昔の偉大な預言者のエリヤでした。彼らはこの後、イエスが十字架に掛けられることについて話し合っておりました。三人の弟子たちにはその話の意味は分かりませんでしたが、イエスはこの時ご自分が神さまからこの世に遣わされて来たことの意味をしっかりと確かめて、確固たる覚悟を持たれたのです。
このような厳かな場面に遭遇して、三人の弟子たちは恐れました。ペテロはこの気高いイエスとモーセとエリヤを見て、ずっとこの場に一緒にいたいと心から思いました。
「先生、我々がここにこうして一緒にいられるのはなんと素晴らしことでしょう。私はここに三つの家を建てましょう。一つは先生の為に、あと二つはモーセとエリヤの為に。」
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ペテロがそう言い終わらないうちに、光り輝く雲が沸き起こってその中から神さまの御声が聞こえてきました。
「これはわたしの愛する子です。わたしが心に掛けている大切なひとり子です。彼の言うことを聞きなさい。」
弟子たちは恐れおののいて、その場にひれ伏しました。
そんな三人の弟子たちに
「怖がることはありません。顔を上げて起き上がりなさい」
とイエスが呼びかけ、手を差し伸べました。
弟子たちが恐々と頭を上げると、もうそこにはモーセやエリヤの姿は見えず、ただ弟子たちをやさしく見つめるイエスがいるだけでした。イエスは弟子たちに
「わたしが死んでよみがえる時まで、今あなたがたが見たことを誰にも話してはいけませんよ」
と諭しました。
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