November



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イサクはヤコブに言った。「近寄りなさい。わたしの子に触って、本当にお前が息子のエサウかどうか、確かめたい。」ヤコブが父イサクに近寄ると、イサクは彼に触りながら言った。「声はヤコブの声だが、腕はエサウの腕だ。」イサクは、ヤコブの腕が兄エサウの腕のように毛深くなっていたので、見破ることができなかった。
創世記27章21〜23節



 175歳でアブラハムが死ぬと、イサクはたくさんの財産を受げ継ぎ、何の不自由もなく暮らしていました。けれども、アブラハムとサラがそうであったように、イサクとリべカにも、なかなか子どもができませんでした。イサクは一心にエホバに祈りました。そして願いはかなえられ、年老いてから双児が生まれました。さきに生まれた子は、まるで毛皮を着ているかのように毛深く、顔も真赤でした。この子には、エサウという名をつけました。あとから生まれた子には、ヤコプと名づげました。
 二人は成長しましたが、こんなに何もかも違っている兄弟もありませんでした。エサウは、あいかわらず毛むくじゃらで、朝から晩まで野原をかげまわり、狩りをしたり、羊を追ったりしていました。こういう少年によくあるように、エサウも、性格が単純卒直でした。ヤコブの方は、少女のように美しい子で、いつもテントにいて母を手伝いましたが、エサウにくらべると、ずるがしこいところがありました。父は、大好物のシカをとってきては、おいしく料理してくれる、少々荒っぽいエサウを愛しましたが、母はヤコブを愛していました。
 ある日、エサウが疲れきって野原から帰ってくると、ヤコブが豆を煮ていました。
 「ヤコブ、たのむ。その豆を食わせてくれ。腹がへって死にそうだ。」
 「もし、きょう、跡継ぎの権利をゆずってくれるなら、それと引きかえにたべさせてやってもいいよ」
 「腹がへって死にそうなときに、跡継ぎの権利なんて、何の役にも立ちやしない。いらないよ、そんなもの。」
 「ほんとうだね、にいさん。ぎょう跡継ぎの権利をゆずるって誓うかい?」
 「あたりまえだ。誓うから早く食わせてくれ。」
こうしてヤコプは、兄から跡継ぎの権利をうぱってしまいました。
 

 それからながい年月がたちました。イサクは年老いて、目がよく見えなくなりました。そこで、ある日、愛するエサウを呼んでいいました。
 「ごらん。おとうさんはもう年をとって、いつ死ぬかわからなくなった。だから野原へいってシヵをとってきてくれ。そして、それをいつものようにおまえの手で料理して、おとうさんにたべさせてくれ。おとうさんは、そのあとで、おまえを祝福したいのだ。」
エサウは承知して、すぐに弓矢をとると外へ出ました。



 この話を聞いていたリベカは、ヤコブをかたすみに連れていって、小声でいいました。
 「ヤコブ。おかあさんのいうとおりにするんですよ。大いそぎで、ヤギの群れの中から一番良いのを二匹選んで連れていらっしゃい。それを、わたしがうまくシカの肉に似せて、おとうさんの好きたごちそうをつくるから、おとうさんのところへ持ってゆきなさい。エサウのかわりに、おまえを祝福してもらうのです。」
 「だめだよ、おかあさん。そんなことしたら、すぐばれちゃうよ。だって、エサウは毛深いのに、ぼくはこんなに肌がなめらかたんだもの。」
 「いいからおかあさんのいうとおりにたさい。ちゃんとうまくやってあげます。エサウが帰ってきたらおしまいです。さあ、早く。」
リベカは、何とかして、ヤコブに父イサクの祝福を受げさせたいと思いました。イサクから祝福された者は、エホバがイサクに与えた愛を、つまり、神の恵みを受けつぐことにたるのです。いつも、げものと草のにおいがしている粗野なエサウより、美しいヤコブの方が祝福を受げるにふさわしい、そうリベカは信じていました。
 ヤコプは、このたくらみがばれたら、かえってのろわれるにちがいないと思って、あまり気がすすみませんでしたが、いわれたとおりヤギを連れてきました。リベカはじょうずにそれを料理すると、ヤコブにエサウの服を着せ、ヤコブのなめらかな首と手をヤギの皮でおおい、さわられてもだいじょうぶたようにしました。
 ヤコブは、パンとごちそうを持って父のところへゆきました。
 「おとうさん。」
 「ああ、ここだ。おまえはだれだ?」
 「エサウです。いわれたとおりシカを料理してきました。どうぞ起きてたべてください。そしてぼくを祝福してください。」
 「ばかに早かったではないか。」
 「ええ、エホバのおかげで、すぐにっかまえることができたのです。」
 「そうか。でも、ちょっとここへきてごらん。ほんとうにエサウかどうか知りたいから。」
イサクはヤコブの手をとり、接吻しました。
 「声はヤコブのようだが、手はエサウだ。」
ヤギの皮でおおわれたヤコブの手は、毛深いエサウの手にそっくりでした。ヤコブの着ている服からは、野のかおりがしました。イサクはすっかりだまされて、「あらゆる天の恵みがわが子に与えられますように。すべての民、すべての国がおまえに仕え、おまえは人びとの主人となり、おまえをのろう者は神にのろわれ、おまえを愛する者は神に愛されますように。」
と、ヤコブに祝福を与えました。



ヤコブが父のテントから出てくると、エサウが狩りから帰ってきました。かれは心をこめて、こちそうをつくり、父のところへ持ってゆきました。
 「だれだ?」
 「ぼくです。エサウです。」
イサクは震えんぼかりに驚きました。
 「それなら、さっきシカを料理して持ってぎたのはだれだろう。おまえがくる前に、おとうさんはその男に祝福を与えてしまった。かれこそ、ほんとうの恵みを受けることになるだろう」
 「おとうさん。ぼくにも祝福してください。ぼくにも、ねえ、おとうさん。」
エサウは、わっと泣き出しました。二人とも、ヤコブ(「押しのける者」という意味)のしわざだということに気づいていました。
 「おとうさん。おとうさんの祝福は一つしかないのですか?ぼくにはなんにも残っていないのですか?ヤコブは、前に、わずか一杯の豆で跡継ぎの権利をうばい、こんどまた、祝福を横どりしてしまった。それでいいっていうわけはないでしょう?おとうさん。ぼくを祝福して、ぼくを祝福して!」
エサウは声をあげて泣きました。イサクはいいました。
 「おとうさんはね、もうヤコブにすべてを与えてしまった。もうおまえに、何をしてやることもできないのだ。ヤコブはあらゆる天の恵みを受げるだろう。そして、おまえは剣をもって世を渡り、弟に仕えることになるだろう。しかたがないのだ。」
エサウは心から弟を憎みました。
 「おとうさんはもうまもたく死ぬ。そうしたらヤコブのやつを殺してやるぞ。」
くやしさのあまり、つい口に出していった言葉を、母が聞いていました。
リベカはヤコブを呼ぶと、
 「すぐここを出て、ハランヘゆきなさい。そこには、おかあさんのにいさんのラバンが住んでいます。エサウの怒りが解けるまで、しぱらくそこにいるのです。エサウは、おとうさんなくなったら、おまえわ殺そうと思っている。おとうさんとおまえと、二人いっぺんに死なれたりしたら、おかあさんはどうしたらいいかわからない。」


ヤコブはハランに向かって旅立ちました。ある日、夜野宿をしている時、ヤコブは夢を見ました。それは地面にはしごが立っていて、見上げるとどこまでもどこまでも高く、天にまで伸びていました。よく見ると、天の使いたちがそのはしごを上ったり降りたりしていたのです。そしてはしごの一番上にはエホバが立っていました。
 「私は、あなたの父祖アブラハムの神、あなたの父イサクの神主である。わたしはいつもおまえと一緒にいて、おまえを守り、無事に又ここへ帰ってこられるようにしよう。おまえの子孫は限りなく増え大きく広がっていく事だろう。わたしはおまえの子孫にこの土地を与える。」
ヤコブははっとして目を覚ましあたりを見回しましたが、なんの跡形もありませんでした。でもヤコブはここに主がおられるのだ、ここに天の門があるのだと確信しました。そしてその場所に枕にしていた石を置き、それを記念碑として先端に油を注ぎました。ヤコブはその場所をベテル「神の家」と命名して神さまに誓いを立てました。
 エルサレムから北に20kmほど行くとエフライムという山地が広がっています。石灰岩の断層が規則的に重なって山をなしている。それは見上げるといかにもヤコブが夢に見たてんのはしごのよう見えるそうです。

 ベテルの遺跡(十字軍の教会跡)