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イエスはすぐ彼らに話しかけられた。「安心しなさい。わたしだ。恐れることはない。」すると、ペトロが答えた。「主よ、あなたでしたら、わたしに命令して、水の上を歩いてそちらに行かせてください。」
(マタイによる福音書 14章 27〜28節)


 イエスが少ないパンと魚から多くの人を満腹にしたことを目にした人たちは、この人こそ我々を虐げられた暮らしから、何不自由ない暮らしへと救い出してくれる救世主だと思うようになりました。弟子たちの間でも、この人はきっとイスラエルの王様になるに違いないと思い始めるものがありました。けれどイエスは全く違う考えでおられたのです。



 イエスは弟子たちに、がリラヤ湖の向こう岸まで舟を出すようにおっしゃいました。そして集まっている人々を解散させ、ご自分はお祈りのために山に登っていかれました。湖に舟を漕ぎ出した弟子たちは湖の真ん中辺りで、強い向かい風のために苦労しておりました。ガリラヤ湖は地中海より211mも低いところにあります。そのせいもあって周りの山、ハウラン山やヘルモン山などから吹き下ろしてくる冷たい空気と、湖面の暖かな空気とがぶつかりこのような激しい突風や嵐を引き起こすことで有名です。弟子たちの中にはがリラヤ湖で漁師をしていたものが何人もいたのですが、その彼らでも強風に逆らって進むことは困難でした。それでも一生懸命に漕いで漕いで、漕ぎまくっておりましたが、とうとう疲れてしまい、舟底に倒れこんで休んでおりました。
 


 夜中の3時を過ぎる頃、弟子の一人が遠くのほうで何かを見つけて叫びました。
 「あれは何だ?」
休んでいた弟子たちも眠い目をこすり、じっと遠くを見つめました。荒れている湖の水面の上を誰かがこちらに向かって来るのです。弟子たちは、幽霊かなにかかと思い、怖さのあまり震えだしました。その人影はどんどん近づいて舟の側まで来ました。ここは湖の上なので逃げ出すこともできませんので、弟子たちはおろおろするばかりです。
 「しっかりしなさい、私です。恐れることはないのです。」
その声はイエスでした。
皆がびっくりしていると、好奇心いっぱいのペトロがイエスのほうに手を伸ばしました。
 「イエスさま、あなたでしたか。わたしに『水の上を歩いてここまで来よ』とおっしゃってください。」
するとイエスは、
 「ここまでいらっしゃい」
とペトロを見つめて言われました。

  ペトロはイエスを見つめながら、水面に足をおろしました。そしてイエスから目を離さず一歩づつゆっくりと歩きだしました。なんと不思議なことでしょう、ペトロもイエスと同じように水の上を歩いているではありませんか。イエスのすぐ近くまで行ったとき、強風がビューっと吹いてきたので、それに気を取られてイエスから一瞬目をそらしました。そのとたん恐怖を感じ、ペトロは沈みかけました。
 「イエスさま、助けて下さい。」
イエスはすぐに手を伸ばして、ペトロを捕まえながらこうおっしゃいました。
 「信仰の薄い人ですね、なぜ疑ったりしたのですか。」
イエスとペトロが舟に乗り込んだと同時に、今まで激しく吹き荒れていた風はピタリと止みました。舟に乗り合わせていた弟子たちは、この出来事を一部始終見ていましたので、イエスのお力に感動して皆口を揃えて
 「本当にあなたは神の子です」
と、言いました。イエスの暖かで穏やかな眼差しに見つめられて、やっと落ち着きを取り戻した弟子たちは、イエスをこころから礼拝しました。
 
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