March


 

 
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 ファラオはヨセフに言った。「わたしは夢を見たのだが、それを解き明かす者がいない。聞くところによれば、お前は夢の話を聞いて、解き明かすことができるそうだが。」 ヨセフはファラオに答えた。「わたしではありません。神がファラオの幸いについて告げられるのです。」
創世記41章15〜16節

 



 ヨセフは賢いだけてなく、顔も姿も、いいようもなく美しい子であったということです。そんなヨセフですから、ポテファルの家の人々にかわいがられたことは言うまでもありません。しかし、ポテファルの妻は邪まな気持ちを抱き、何とかしてヨセフに愛されたいと思うようになりました。けれどヨセフは相手にせず、女主人がどう手を尽くしても言うことを聞きませんでした。
 ある日ヨセフはポテファルの妻と二人きりで家の中にいました。彼女はこれを幸いと、ヨセフにすがり付き、自分を愛してくれるように頼みました。ヨセフは驚き、咄嗟に彼女がしっかりつかんでいる自分の衣を捨てて、逃げていきました。



 自分の企てが失敗し、ヨセフに拒絶された女主人は、腹をたて夫にこういいつけました。
 「あのユダヤ人ったら、あなたの留守を見てわたしに言い寄ったのですよ。わたしが大声を上げたものだから、びっくりしてこの衣を脱いだまま逃げていきました。恩をあだで返して、ほんとにひどい男ですよ。」
 もちろん、これを聞いたポテファルはかんかんに怒って、ヨセフを牢に入れてしまいました。



 牢に入れられたヨセフは主に守られ、牢の番人にも信用され、牢の中のことを一切取り仕切るようになっていました。そんなある日、王の給仕長と料理頭が、王のご機嫌をそこねて牢に入れられヨセフのところに連れてこられました。
 数日後二人が浮かぬ顔をしているので訳を聴いてみると、
 「ゆうべ夢を見ましたが、その意味がどうしてもわからないのです。」
と答えました。
 給仕長の夢は
 「一本のぶどうの木があって、その三つの枝から芽が出て、花が咲き、実が熟した。わたしはその房をとって王の杯にしぼり、王に捧げました」
 というものでした。ヨセフは
 「三つの枝は、三日を意味します。あなたは三日後に牢から出され、ふたたび王の給仕長 として元通り、王の杯に酒を注ぐようになるでしょう」
と夢を解き明かしました。そして
 「そうなったらわたしを思い出して、王に話してください。わたしは何も悪いことはしていないのにこうして牢に入れられているのです」
と給仕長に頼みました。



 このよい夢に元気づけられた料理頭も夢を話しました。
 「わたしの首に、白いパンを入れた籠が三つぶらさがっていました。ほかの籠にも王のために作ったいろいろなごちそうがあった。そこへ鳥が飛んできて、わたしの首にかかっている籠のパンを食べてしまったのです。」
ヨセフはその夢を解き明かしてこう答えました。
 「三つの籠は三日をあらわします。三日後にあなたは牢から出され縛り首になるでしょう。鳥がパンを食べるというのは、そのあなたの肉を食べるという意味です。」
 三日後は王の誕生日でした。王は牢から二人の囚人を出し、一人は元通り家来にして酒を注がせ、もう1人を縛り首にしました。しかし、給仕長は助かったことが嬉しくて、ヨセフのことなどすっかり忘れてしまいました。



 さて給仕長がファラオにゆるされて復職してから二年が経ち、ヨセフが30歳のときのことです。ファラオはある夢を見ましたが、それはこんな内容でした。
−ファラオがナイル川のほとりに立っていると、毛色よいよく肥えた雌牛が7頭、川から上がってきた。そこへあとから醜いやせ細った雌牛7頭があがってきて、肥えた雌牛を食い尽くした。−
ここで目がさめ、もう一度眠ると、今度はこんな夢でした。
−一本の茎から、太ってよく実った7つの穂がでた。そこへあとから実が入っていない、砂漠の風でカラカラになった7つの穂がはえてきて、よい7つの穂を飲み込んだ。−
目がさめたファラオは強く胸騒ぎがしました。「この夢は、何か意味があるに違いない」と思ったファラオは、エジプト中の魔術師や賢者を召集しましたが、ファラオの夢を解き明かせる者はいません。



例の給仕長はこのとき、ヨセフを忘れていた罪を告白して、ファラオにヨセフのことを進言しました。かつて自分と料理長が王の怒りにふれて牢獄にいたとき、ヘブライ人の若者がいて自分と料理長の夢を解き、その解いたとおりになったことを詳しく話したのです。
 身だしなみを整え現れたヨセフに、ファラオは「聞くところによれば、お前は夢を解き明かすことができるそうだが」と切り出しました。するとヨセフは「わたしが解くのではなく、神が告げるのです」と答え、ファラオの夢を聞いてこう解き明かしました。
「ふたつの夢は同じ意味で、神がこれからなさることをお告げになったもの。7頭のよい雌牛と7つのよい穂は、これから7年間、エジプト全土に大豊作が来ることを告げています。あとから現れた7頭の悪い牛と7つの悪い穂は、そののち7年間、大豊作のことを忘れるほどの大飢饉が来ることを告げています。ファラオが二度も重ねて夢を見たのは、このことの確実さを神が知らせるためです」



 さらにヨセフは、ファラオに勧めました。
「だから今すぐ、聡明で知恵のある人物を探して国を治めさせ、国中に監督官を立て、豊作の7年間に食料をできる限り集めさせて蓄えさせるようになさいませ。そうすれば、飢饉による滅亡はまぬがれましょう」
するとファラオは家来たちに「このように神の霊が宿っている人はほかにあるだろうか」と言いだしました。エジプトの賢者も魔術師も解けなかった夢を、「神が告げます」といってヨセフが解いたのをみて、「ヨセフとともにある神は、ほかの神々とは違う」とさとったようです。
 そこでファラオはヨセフに言いました。
「聡明で知恵のある者を立てろとな。神がすべてをお前に示されたのは、お前こそ聡明で知恵があるからであろう。お前をわが宮廷の責任者とする。全国民はお前の命令に従い、わたしがお前にまさるのは、ただ王位のみだ。」
そういってファラオは、指輪をはずしてヨセフの指にはめました。この指輪は印章になっていて、ファラオの名においてどんな文書も発行できるのですから、これは全権委任です。ポティファルや看守長が「神がともにあるヨセフにまかせれば、何も心配しなくていい」と判断したのと同様に、ファラオも「この国家の一大事も、神とともにあるヨセフにまかせれば、何も心配しなくていい」と判断したのです。 そしてファラオはヨセフに宮廷服を着させ、金の首飾りを彼の首にかけ、王の第二の車に乗せました。
 さらに、外国人のままでは政務に支障もあろうと思って帰化させたのでしょう。ツァフェナト・パネアというエジプト名を与え、エジプトの祭司の娘を妻として与えました。
 ヨセフはファラオの前を辞すると全国を巡回し、豊作の7年の間に穀物をできるかぎり集め、町ごとに蓄えさせました。その豊作は、あまりの収穫についに文字通り量りきれなくなり、ついにヨセフは量るのをやめてしまったほどでした。



 飢饉のやってくる前年に、ヨセフには二人の息子が生まれました。ヨセフは「神が、わたしの労苦と父の家のことをすべて忘れさせてくださった」といって、長男に「マナセ(忘れさせる)」と名づけ、次男には「神は、悩みの地で、わたしに子孫を増やしてくださった」といって「エフライム(増やす)」と名づけました。
 後のことになりますが、マナセの子孫からは、士師の時代に勇者ギデオンが現れます。エフライムの子孫からは、モーセの後継者ヨシュアが現れるのです。
 さて、夢が明かされたとおり驚異的な豊作のあと、驚異的な飢饉がやってきます。この飢饉はエジプトだけでなく周辺地域をも襲うことになるのです。