住み慣れたゴセンの地を後にして、100kmほど進むと荒野に出ました。荒野は半分砂漠と言っても良いくらいの所で、見渡す限り砂地が続き、所々に刺のある潅木が生えていました。豊かに牧草の繁っていたゴセンの地から見れば恐ろしいほど侘しく荒れ果てた地を進み続けたのでした。
神は彼らの先に立ち、昼は雲の柱で方向を教え、夜は火の柱で照らして一行を見守り、導きました。 |
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パロは、モーセたちが荒野で彷徨って、そのうち皆死んでしまうだろうと思っていましたので、イスラエルの人々が無事に旅を続けていると聞くと、悔しくなってきました。沢山の働き手がエジプトからいなくなってしまったので困ってもいましたし、彼らが沢山の財産を持って行ってしまったことも悔やんでいたのです。それをむざむざと逃がしてたまるかという気持ちが起こり、彼らを捕らえようと、えりぬきの軍隊を引き連れ、馬に牽かせた戦車を何台も連ねて、イスラエルの人々の後を追いかけてきました。 |
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エジプトの軍隊は、紅海の近くでイスラエルの一行を見つけました。今のスエズ運河付近にバルダビル湖という湖がありその近くの砂州ではないかと言われています。イスラエルの人々も遥か彼方に巻き起こる砂煙に気づき、エジプトの軍隊が追ってきたことを悟りました。
「エジプトの軍隊だ!」
という恐怖の叫びは、波のように先頭のモーセのところまで伝わりました。彼らの行く手には、泥濘の浅い葦の海に遮られ、後ろからは砂煙をあげてエジプトの軍隊が刻々と近づいてきます。絶体絶命です。女子供は泣き喚き、男たちは口々に「こんな荒野で軍隊に殺されるより、エジプトの奴隷でいたほうが良かった」と叫びたてました。モーセは民たちに「あなたがたは恐れてはならない。固く立って、主が今日あなた方の為になされる救いを見なさい。今日あなた方はエジプト人を見るが、もはや永久に彼らを見ることはないであろう」と大声で言い渡しました。
夜になりエジプト軍は進軍を止め、翌朝の戦いに備え宿営をしました。神の御使いと雲の柱はイスラエルの人々とエジプト軍との間に立ちました。真っ黒い雲があたり一面にたちこめ、また閃光が闇夜を貫き、エジプト軍は一歩も動くことが出来ませんでした。その間に、モーセはイスラエル人たちに命じて出発の準備を急がせ海に向かって進みました。モーセは神様がお命じになったように、海の上にすっと手を差し伸べ祈りました。すると主は夜の間中強い東風を送り込み、その風によって海の水は退き、乾いた固い陸地が現れたのです。人々は水が分かれたことに大変驚き、すぐにこの乾いた陸地を渡り始めました。
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イスラエルの人々が海の中を渡っているのを見たエジプト軍は慌てて彼らを追いかけ海に入ってきました。しかし、乾いた地面はその上を歩いて渡るくらいの固さはあっても、戦車部隊や武具を着けた者が渡るにしては柔らかすぎました。エジプト軍は泥濘に足を取られ動けなくなりました。そして引き返す間の無い内に、風の向きは変わり、退いていた海の水が戻ってきてエジプト軍は水に呑まれ殆どが溺れ壊滅状態となったのです。
海を渡り終えていたイスラエルの人々は、反対側の岸辺からエジプト軍の有様を固唾を呑んで見守りました。彼らは神様の偉大な業により海の水が引き、自分たちは水と水の壁の間の乾いた陸地を進むことが出来、エジプト軍には水の壁が崩れ水が覆いかぶさり、全員が死んでいくのをつぶさに見たのです。主がエジプト人に対して行われた偉業を見たのです。神様はこうしてイスラエルの人々をエジプトの軍隊から守り、救ったのです。イスラエルの人々は主を畏れ敬い、主とその僕モーセを信じたのでした。
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イスラエルの人々は主を讃美して歌を歌いました。モーセたちの姉のミリアムは小太鼓を手に取ると打ち鳴らし踊り始めました。他の女の人たちもそれを真似、小太鼓を打ち鳴らし踊りの輪に加わりました。
「主に向かって歌え。主は大いなる威光を現して、私たちをエジプト軍から救い出して下さった。主はファラオの戦車と軍勢を海に投げ込まれた。・・・」
暫くの間イスラエルの人々は自分たちの幸運を喜びました。ついに奴隷の束縛から永久に解放されたからです。しかし、まだ前途には多くの厳しい試練が待ち構えていたのです。
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