April


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ヨセフは、そばで仕えている者の前で、もはや平静を装っていることができなくなり、「みんな、ここから出て行ってくれ」と叫んだ。だれもそばにいなくなってから、ヨセフは兄弟たちに自分の身を明かした。 ヨセフは、声をあげて泣いたので、エジプト人はそれを聞き、ファラオの宮廷にも伝わった。 ヨセフは、兄弟たちに言った。「わたしはヨセフです。お父さんはまだ生きておられますか。」兄弟たちはヨセフの前で驚きのあまり、答えることができなかった。
(創世記45章1節〜3節)

 

 エジプトでは7年の大豊作の後、ヨセフの夢の解き明かし通り7年間の大凶作が始まりました。飢えた人々が王(パロ)に「どうか食べ物を下さい」と言うと王は言いました。
「ヨセフのところへ行きなさい、彼がなんとかしてくれるだろう」
ヨセフは国の倉庫を開いて、食物を皆に売りました。飢饉はエジプトだけでなく、周りの国々をも飲み込んでいきました。木も草も枯れはてて、食べるものが何もなくりました。カナンにいるイスラエル(ヤコブ)のところでも食物が何もなくなりました。イスラエルはエジプトへ行けば食糧があることを伝え聞き、十人の子供たちをエジプトに買出しにやることにしました。末のベニヤミンだけは、ヨセフのような災難に会うのを恐れ、手元に残しておきました。
 

 十人の兄弟たちは長い旅をしてエジプトへ着くと、ヨセフのところへ案内されて、その前にひれ伏しました。ヨセフはすぐに兄たちだと気がつきましたが、知らないふりをして何の用で来たのかと訊ねました。
 「わたくしどもはカナンの地からはるばる穀物を買いにまいりました。どうぞ売って下さるようお願いいたします。」
彼らはまさか、その大臣がヨセフだとは夢にも思わず、うやうやしく言いました。
 「いや、おまえたちはこの国の様子を伺いにきたスパイに違いない!」
 「とんでもございません。わたくしどもは皆カナンに住む羊飼いの兄弟で、スパイなどではありません。兄弟は全部で12人いますが、末の弟は父のもとにおり、もう1人はいなくなりました。」
 「もし疑われたくなければ、1人だけ人質にここに残し、あとのものは食糧を持って国に帰り、再び末の弟を連れてここへ戻って来い。そうすればおまえたちがスパイでないと納得してここに残った者の命は助けてやることにしよう。」
 兄弟たちは次男のシメオンを人質として残し、食料を持って帰途に着きました。
じつはヨセフはその時こっそりと、穀物の代金として彼らが払った銀を全部穀物の袋に返しておいたのです。
 その袋を発見した9人の兄弟たちは震えおののき、あわてて父の元へ帰り、訳をすっかり話しました。
 その話を聞くとイスラエル(ヤコブ)も震えてしまいました。どうしたらよいのか途方にくれていました。このままにしておいたら人質に残されたシメオンは殺されるに違いありません。かといって愛するラケルがこの世に残した忘れ形見の命より大事なベニヤミンをエジプトに送り出す決心もつきません。しかし悩むうちに日がたち食糧も尽き、とうとう兄弟たちはベニヤミンを連れてもう一度エジプトに向けて旅立つことにしたのでした。
 

 さて、一行がベニヤミンを伴ってエジプトに着いたのを知ったヨセフは、矢も盾もたまらず家来に言いつけて彼らを自分の家に案内させました。ヨセフの家に連れて来られた兄弟たちはどういった目に遭うのか全くわからず、不安におののいていました。
 やがてヨセフは兄弟たちの前に姿を現しました。ヨセフはベニヤミンを見ると胸がいっぱいになり、別の部屋に駆け込むと大声で泣き出しました。どんなにかこの弟に逢いたかったことでしょう!ヨセフは気を落ち着けると兄弟たちと共に食事をしました。席が兄弟たちの年の順番に準備されていたこと、ベニヤミンの食事だけ特別豪華だったことを兄弟たちはとても不思議に思いました。
 食事が済むと、ヨセフは兄弟たちに持てるだけの食糧を持たせ、お金も返して、カナンに帰らせました。しかし、家来に言いつけてベニヤミンの袋に自分の使っていた銀の杯をわざと入れさせておいたのでした。
 兄弟たちがエジプトの町を出ると間もなく、ヨセフの家来が彼らを追って来ました。
 「主人があれほどの好意を持ってもてなしをしたのに、主人の銀の杯を持ち去るとは何事だ」
 「何をおっしゃいます。私どもは決してそのようなことは致しません。どうぞお調べ下さい。もしその杯が見つかったら、それを持っていたものを処罰し、また私たちを奴隷にでもなんでもしてください」

 
 彼らが急いで荷物を降ろし、穀物の入った袋を開けて見ると、なんとベニヤミンの袋にその杯が入っていたではありませんか。一同はそろってヨセフの所へ行きました。
ヨセフは
 「おまえたちは何と恩知らずなことをしてくれたのだ。本当なら皆を奴隷にするところだが、杯を持っていたものだけで許してやる。その者を残してほかの者はさっさと故郷へ帰るがよい」
と言い渡しました。そのとき四番目の兄弟のユダが進み出てこう言いました。
 「どうぞ私の願いを聞きいれて下さい。このベニヤミンには、本当の兄が1人おりましたが、彼が死んだ後、父はこの子を何にも代えがたいほど愛しております。私は父に命に換えてもこの子を無事に連れて帰ると固く約束してまいったのです。この子なしには父のもとへ帰ることはできません、どうかこの子の代わりに私を奴隷とし、弟は父の元へ帰してやって下さい。」
 これを聞いたヨセフはもう我慢が出来なくなり人払いすると兄弟たちに駆け寄り、抱きしめてわっと泣き出しました。
 「お兄さん私はヨセフです、あなたたちが奴隷として売ったヨセフです。」
 
 ヨセフが奴隷としてエジプトに入国した紀元前1720年頃から、1700年にかけてエジプトにはヒクソスと呼ばれたシリア・カナンの連合軍が侵入してきたのでした。この侵略者たちは自分たちのパロ王朝をうち立て150年もの間エジプトを支配したと言われています。ヨセフが仕えた王朝はそのヒクソス人の王であり、彼らはエジプト人よりもむしろヨセフのような人間を信頼することが十分に考えられることです。ヨセフが権力の座に昇り詰めたのもうなずける話なのです。
 当時エジプトはナイル流域の肥沃な土地で十分な作物が取れたことは周知の事実です。パロの穀倉には穀物が大量に貯蓄され有り余っていましたので、窮乏や飢饉の際には、他国から遊牧民を国内に受け入れるのが、古来エジプトの政策であったようです。
 エジプトの資料には「その日の糧にも窮した外国人の中にはパロの領地に来て穀物を求めたり物乞いをするものまであった」と残されていますが、そんな時期にヨセフの兄弟たちも食糧を求めてエジプトにやってきてヨセフと再会することができたのでしょう。

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