今月の特集題  熱心に聴く Part2
              
                        原発に一番近い教会からの報告を聴いて




練り上げられた忍耐
一柳 茂樹
 9月15日、大宮教会において、福島第一聖書バプテスト教会の佐藤彰牧師による「いつまでも変わらないもの」と題しての講演会に参加しました。
 佐藤彰牧師の語り口は、静かでなめらかでした。旧約・新訳の聖句を引用しながら、散らされた教会員の苦悩を代弁、大まかに言うと流浪の民となりながらも、いわき市内に教会用の土地を確保するまでに至った、経緯が語られました。
 あんなに神様を求めたことはなかった、と述懐していました。
あの時、イザヤ書43章の神を目撃し、いにしえの出来事、聖書の世界が我が身にも起こるのだということを実感したと。
 異様な事態にかかるストレス。避難生活も半端じゃない忍耐がいる。
 もし、この千年に一度と言われる未曾有の災害から立ち上がれたとしたら・・・。
 あの極限状態に立ち、艱難から神によって練り上げられた忍耐は、一人ひとりを再生させる。そして心と体で体験したことは一生忘れない、どんなことも乗り越える力となり、やがて財産になる・・・と語られました。
 しかしながらこの私は、別の「いつまでも変わらないもの」厄介なものを思い浮かべています。
 福島原発の事故により避難を余儀なくされている・何ら落ち度のない民の町に、盗人が横行するわ、風評被害や人権無視の非道な扱いを受けるわで、傷んだ心や体になおムチを打つ者への、怒り・哀しみはいかばかりかと。こればかりは許せねー。
 私は仕事の一環として、原発被害で福島県、双葉町の住民が役所ごと加須市の旧騎西高校に避難している住人の生活相談を承っています(月一回程度の訪問)。
 一時は1,400名を越えていましたが、現在は約200名、高齢者と障がい者、その方を介護する家族の方々がほとんどです。
 今まで無償で支給されていた弁当代が有料化されたということです。弁当は従来、災害救助法により国費で賄われています。
 仮設住宅などに避難している同じ福島県民から騎西高の住民は優遇され過ぎているとの声に、弁当代を徴収しようということなり、行政側は「それが平等だ」と解釈しています。
 人の心に巣食うもの、人の心の「いつまでも変わらないもの」は、この差別感・妬み・嫉みではないでしょうか。弱いもの、身近なもの同士で歯がみ・骨食い。この人間の破れは、古今東西、決して亡くならないでしょう。キリスト・イエスを信じることにより、この破れが少しでも薄まれば、人を思いやる心が少しでも芽生えれば、私の信仰の原点はここにあります。
(いちやなぎ しげき)


一番熱心に聴いて下さる方は?
豊川 昭夫
 始めに、この数字は何だと思いますか。
 2005年38人、2007年29人、2008年20人、2009年17人。これは私が所属している埼玉地区の災害対応委員会の過去の講演会の参加者数です。新潟県中越地震で被災した教会の牧師や埼玉県の防災課地震対策担当者等にお話して頂き、毎回大変興味深い講演でした。しかし、参加者が少ないのです。結局、2010年から講演会は開催しませんでした。そして、今年3年ぶりに講演会を企画しましたが、今回も参加者が少なければ委員会の存在自体も危ぶまれます。その為、いつも以上にチラシ・ポスターを多く作成し、他の集会にも出かけ宣伝しました。委員会では、無理だと思うが100人の参加者を目標にしました。結果、ナント講師を除き、丁度100人が参加しました。信じられません!
 昨年の3月11日を境にして変わったことが一つあります。それは、日本に暮らしていれば地震は当たり前、しかし自分の所は大丈夫だろうと思っていた考えが、一遍に吹き飛んでいったのです。極端にいえば二人に一人が、あの揺れを経験したのです。もはや地震は完全に他人事ではありません。
 講師の佐藤彰牧師の福島第一聖書バプテスト教会は、福島第一原子力発電所から5キロ圏内にあった教会です。その教会は、2008年に100年使える教会堂として建てられましたが、東日本大震災、そして原発事故で避難生活を余議なくされました。もう教会へは戻れません。教会員は北海道から沖縄まで散らされ、佐藤牧師と教会員60数人は、流浪の旅に出たのです。正に、現代版出エジプト記です。
 佐藤牧師の地震発生から原発事故、そして避難生活に到るまでのお話は、非常に厳しい現実がありました。今も福島県では15万人も避難しているのです。佐藤牧師は昨年9キロも体重が落ち、夜は2時間以上寝られなかったそうです。未来は不安だらけです。しかし、「この1年半を経て、教会員全員が異口同音に『神様を感じ神様に救われた』と言っています。そして、心と体で体験したことは決して忘れない、いつか復活することを信じている」と話された言葉が印象に残っています。 (講演の録音は埼玉地区のホームページで聴けます)
 今回、参加した会衆は、それこそ熱心に聴いて下さいました。講演中、あちこちからすすり泣く声も聞こえました。私はプロジェクターの準備や受付、写真撮影・録音等、相変わらず忙しく動いていて熱心に聴いたとは言えません。しかし、佐藤牧師の願いも、私達の願いも聞かれたと思います。この講演会を通して結局、一番熱心に聴いて下さったのは神様だと実感しました。
 主に自らをゆだねよ
 主はあなたの心の願いをかなえてくださる。 (詩編37編4節)
(とよかわ あきお)
越谷教会月報みつばさ2012年10月号特集「熱心に聴く Part2」より


特 集