クリスマスの朝が明けると、それぞれのことばで書かれた「メリー.クリスマス」のサインが、この塹壕の両側に高々と掲げられていました。恐怖にもまさる、ある強い力に引かれて、兵士は一人、また一人と武器を置いて、有刺鉄線の下をくぐり、塹壕の間の地域に出ていきました。最初はわずかな兵士たちでしたが、見る見るうちに数が増え、大勢のイギリス兵とドイツ兵がクリスマスの朝の光の中で顔を合わせたのです。親や妻の写真を見せ合い、あめ玉やたばこを交換しました。ある兵士が持ってきたボールでサッカーに興じました。
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しかし、クリスマスの休戦も、ここまででした。事態を憂慮した高官たちが、ただちに兵士たちを塹壕に呼び戻したのです。そして発砲が再開されました。数時間後、イギリス軍は、二度とこのような不祥事があってはならぬと、厳命を下します。
「我々は戦うためにいるのだ。クリスマスを祝いに来ているんじゃない。」
兵士は命令に従いました。歴史が示すように、この戦争ではドイツ側もイギリス側も、当時の若者の世代を、ほとんど全滅に近い状態で失いました。しかし、わずかですが生き延びた者の心には、前線で迎えた大戦初めの、あのクリスマスの忘れ得ぬ記憶が残りました。すなわち、クリスマスの日の数時間、彼らにはイギリス国王でも、ドイツ皇帝でもない、仕えるべき別の君主がいたということです。平和の君と呼ばれる方こそ、その方なのです。 |
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この世界のあちこちで起こっている戦争や争いがなくなり、人々の心に平和の灯が燈りますようお祈りいたします。 |