第10日


12月12日(火)

 

 

ところが、彼らがベツレヘムにいるうちに、マリアは月が満ちて、 初めての子を産み、布にくるんで飼い葉桶に寝かせた。宿屋には彼らの泊まる場所がなかったからである。
(ルカによる福音書2章6〜7節)

        



 ブヒィーン!おいらの名前はクロッパー、世界一幸せなロバなのさ。おいらがとっても素晴らしいある夜のお話をするから、ゆっくり聞いておくれ。
 それは、おいらが早朝にごはんの美味しい草をむしゃむしゃ食べていた時に始まったのさ。 おいらのご主人様のヨセフさんが家の中からたづなと旅行用の大きな袋を運んできたんだ。ブヒィーン、やったー冒険にいけるゾ!!!おいらはわくわくしてきたよ。おいら冒険が大好きなのさ。
 ヨセフさんは奥さんのマリアさんを家から連れてきておいらの背中に乗っけた。
 “あれっ?マリアさんは、この前乗せた時より重くなってるぞ、太ったのかなあ?”
おいらは内心はそう思ったけど、そんなのは気にしない、へいっちゃらだ。
 “さあ出発だぁ”
おいらは鼻歌を歌いながら歩き始めたよ。



 けれど道は案外険しくて、反りたった岩の丘やひんやりとした緑の谷を、おいらは汗水たらして進んで行ったよ。おいらたちは静かな村々や賑やかな街も通り過ぎていった。そして長い間進んでやっとベツレヘムの街にたどり着いたんだ。
 ベツレヘムの街は近くの村々や遠くの街々から来た人々でごった返していた。ブヒィーン、ヒーン、バフバフ、他のロバたちが騒がしくいなないている。まあ、おいらのこの美声に敵うもんは誰もいないけどね!ブヒィーン!
 子供たちはおいらたちの周りでゲームの札を叩きつけて遊んでいるし、お母さんたちは彼らをがみがみ叱りつけている。また昔っからの友達が久しぶりに逢ったのか、笑ったり、大声を上げたり、お互いの背中を叩き合って話している。この街はなんと騒がしいんだろう。おいらは呆れてものも言えなかったよ。ブヒィーン!



 「ヨセフ、見て。この人たちは全部ベツレヘムへ来た人たちだわ」
マリアさんがヨセフさんに話しかけた。ヨセフさんは周りを見回しながら答えた。
 「ああ、そのようだね。これじゃ、今夜の宿を見つけるのは難しくなりそうだよ」
 “えーっ?今夜はおいらゆっくり休みたいよ、ヨセフさんがんばって宿を探しておくれよ〜”
おいらも休める宿が見つかるかどうか不安になっていた。
 おいらたちは宿を探して、あらゆる通りや小汚い路地まで、街中歩いたよ。ヨセフさんは宿屋を見つければドアをノックして、空いている部屋があるかどうか聞いて回ったんだ。でも空部屋のある宿屋は1軒たりともなかったんだ。どこもかしこもいっぱいさ。
 辺りは薄暗くなって来たし、気温もだいぶ下がって寒くなってきた。おいらはよだれの出そうなぐつぐつ煮えたシチューや、焼きたてのパンの匂いを嗅いで、腹を空かせたライオンのようにグーグーとお腹が鳴ったよ。それにずっと歩き続けて来たから、おいらの足は棒のようで、ひづめから膝まで痛くて痛くてもう一歩も歩けなくなっていた。



 その時ヨセフさんはマリアさんに優しく訊ねた。
 「マリア、疲れただろう」
するとマリアさんは微笑みを浮かべてこう答えたんだ。
 「だいじょうぶよ、神様がきっと我々を導いて、今夜の宿を備えて下さるわ。」
その言葉で、おいらの疲れはいっぺんに吹き飛んでしまったのさ。おいらたちは疲れた身体に鞭打って、歩いて歩いて街をさまよった。
 街外れの少し寂しい路地を足を引きずりながら歩いていた時、建物の陰に一軒の小さな古びた宿屋を見つけた。ヨセフさんはきっとだめだと思いながらもドアをノックした。
 「トントントン」
 「旅のものです、どんな部屋でもいいからどうか一晩泊めて下さい。」
やさしそうなご主人が顔を出し、残念そうに首を横に振ってつぶやいた。
 「悪いね、もう空いている部屋がないんだ。」
しかし、彼はマリアさんに目を留めると
 「今夜はもうだいぶ更けてきたし、あんたたちもひどく疲れているようだ。馬小屋ならばおまえさんがたを泊めることが出来るんだが・・・。そこはそんなに寝心地は良くないが、少しは休むことが出来るかもしれないよ」
と気の毒そうに言ってくれたんだ。もちろんこれから他に宿が見つかるはずも無いし、ヨセフさんは一にもなく応じたよ。
 ヨセフさんはおいらの背中から重たい荷物を下ろしてくれた。ブヒーンやっと一息ついたわい。それにここにはおいらの夕食の美味しそうな干草と新鮮な水があった。申し分ない!
 マリアさんとヨセフさんは、牛や羊たちそしてこのロバのおいらに囲まれて、ゆっくり休めそうもないだろうなあ。でも彼らは藁のベッドに身体を横たえまどろみ始めた。そろそろおいらも寝るとするか、おやすみなさい。





「おぎゃあ〜おぎゃあ〜」
突然、おいらの眠りはある物音で妨げられたんだ。


 赤ちゃんだ!マリアさんが男の赤ちゃんを産んだんだ。その赤ちゃんはイエスと名づけられた。彼らは赤ちゃんイエスを布にくるんで飼い葉おけに寝かせたよ。それはおいらたちが食べる干草を入れてあったものさ。
 おいらは赤ちゃんの誕生にうれしくなって赤ちゃんの所までパカパカと跳ねていったよ。赤ちゃんイエスは静かに寝息を立てていた。なんと愛らしくかわいらしい赤ちゃんなんだ。おいらは胸を張って言ったね。
 「彼は特別さ」
彼の傍らにいると、鼻の天辺からしっぽの先まで、眠っている羊のように平安な気持ちになった。マリアさんとヨセフさんは彼のバラ色のほっぺにキスをして、美しい讃美の歌を口ざすんだ。フーッムなんと美しい光景なんだろう!



 おいらたちはまた、眠りについたけど、暫くして興奮した声に眠りから呼び覚まされた。1人の羊飼いが他の仲間を呼んでいたんだ。
 「こっちだ、こっちだ。救い主御子キリストを見つけたぞ。」
そして突然羊飼いたちが小屋になだれ込んできた。そして最初のヤツが急に立ち止まったので、背の高いヤツと低いヤツが彼にドンとぶつかった。
 「マリアさま、私たちは遠くから駆けつけて来たんです。御子を拝んでもいいですか?」
 「もちろんですとも、どうぞお入り下さい」
ヨセフさんは優しく答えた。
 「しぃーっ。」
太ったヤツがささやいたので、彼らは爪先立ちで飼い葉おけまで進んだ。



 彼らは飼い葉おけの傍らにひざまずき、出来るだけ静かにそーっと赤ちゃんイエスを見つめた。そして口々に話し始めた。
 「我々は夜野原で羊の番をしていました。」
 「突然天使が目の前に現れて、眩しい光が我々をめぐらしました。」
 「そう、我々がびくびくしていると、『天使は恐れることはありません、私たちは今日あなたがたに、全ての人々に喜びをもたらす良い知らせを持ってきたのです』と天使が言ったんです。」
 「そして、我々の見たものをあなたがたは信じないかも知れませんが、空は明るい光で満たされ、何百いや何千もの天使たちが『天におられる神にみ栄えあるように、地にある全てのものに平和があるように』と讃美の歌を歌ったんです」
 「神様は救い主御子キリストを我々に送ってくださると言う約束を守って下さったんだ。」
ヨセフさんとマリアさんとおいらは目を輝かせて彼らの話に耳を傾けた。そしてマリアさんは頷いて答えた。
 「そうですね、神様はこうして御子を下さり私たちを祝福して下さいました。」
羊飼いたちは、
 「急いで家に帰ってこのことを皆に知らせようではないか!。」
と互いに言い合い、喜び勇んで来た道を戻っていった。



 おいらは人々が羊飼いたちの言うことを信じたかな?と思うよ。でも人々がこの話を信じようが信じまいが、おいらは本当のことをちゃんと知ってるのさ。だっておいらはこの二つの目でずっと見てたんだから。おいらが救い主御子イエス・キリストの誕生のその時に、そこに居合わせた唯一の証人なんだから。
 おいらクロッパーは世界一幸せなロバなのさ!!!

 「Clopper The Christmas Donkey」より
Written by Emily king

(訳:K.Ogita)